100 年の歴史を持つ組織のデジタルトランスフォーメーションを Working Backwards でリードする

三菱電機の朝日 宣雄 氏と田中 昭二 博士との会話

三菱電機の朝日宣雄氏と田中昭二博士が、100 年の歴史を持つ製造コングロマリット全体でデジタルトランスフォーメーションを推進するための取り組みについて語り、Amazon の Working Backwards 手法を活用して顧客のニーズをより良く理解し、革新的な新しいソリューションを開発した方法に加えて、サイロ化されたルール主導型の組織から、より俊敏なデータ主導型の組織への移行における文化的な課題を共有します。

AWS のリーダーとの対話ポッドキャストでは、このインタビューの音声バージョンもご利用いただけます。 以下にあるお気に入りのアイコンをクリックしてお聴きください。

この会話では、組織の大規模な変革を成功させるために、忍耐、新しいテクノロジーの採用、実験の精神の育成の重要性が強調されています。

100 年の歴史を持つ組織の進化

顧客の信頼を築くデジタルエクスペリエンス

Richard Taylor:
お二人とも、本日はこの場にお越しいただき、ありがとうございます。三菱電機の 100 年の歴史についてお話しいただきましたが、これは組織にとって壮大なジャーニーだったと思います。三菱電機に入社してからこれまで、チームや組織のミッションステートメントにどのような変化がありましたか?

朝日 宣雄 氏:
私は三菱電機で 35 年間働いています。かなり長いですね。当社は現在 9 つの事業グループに分かれており、基本的には独立して業務を行っています。一部のお客様はグループ間で共有されていますが、基本的にテクノロジーと製品の事業は独立して事業を遂行しています。

三菱電機のトップマネジメントは、このようなコングロマリット経営が良いのか、将来に向けてコングロマリット経営を活用できるのかどうかについて、長きにわたって議論を重ねてきました。1 年半前、当社は新しい戦略テーマである「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」を発表しました。これは、当社がデジタルテクノロジーを利用することで、事業部門が 9 つに分かれていても、何らかの統合ソリューションをお客様に提供できることを示すものです。当社がビジネススタイルを変化させるうえで、これは重要な点となっています。

Richard Taylor:
それらの 9 つのサイロの中で、新しいミッション、あるいは新しい課題に対するチームの反応はどのようなものでしたか?

朝日 宣雄 氏:
当社では昨年、9 つのビジネスグループを 4 つのビジネスエリアに分け、4 名のビジネスエリアオーナーを任命しました。これらのオーナーのミッションは、基本的に統合ソリューションを形作ることです。しかし、三菱電機にはそのための方法論はありません。なぜなら、当社は 100 年の歴史を持つ純粋な製造企業だからです。

「循環型 デジタル・エンジニアリング」のコンセプトは、当社の製品やシステムを使用しているお客様から収集したデータを分析し、お客様向けのソリューションを生み出して、提供することです。しかし、当社にはお客様の共通データベースがないため、文化的な変革のために、基本的なテクノロジープラットフォームバックグラウンドの準備を開始したのです。

お客様が実際に必要としているものを知る

顧客の信頼を築くデジタルエクスペリエンス

Richard Taylor:
AWS は最近貴社と協力しており、大変光栄に思っています。それはどのように始まったのですか? 当社はどのような経緯で関与するようになったのでしょうか? 貴社が取り組もうとしていた問題、あるいは機会はどのようなものでしたか?

朝日 宣雄 氏:
DX イノベーションセンターを立ち上げる前、私は住宅設備機器事業グループで業務を行っており、ある種の IoT 製品を生み出すための取り組みを開始し、データを収集しようとしていました。当社は当時、AWS のプラットフォームを選択し、AWS 上に IoT プラットフォームとスマートフォンアプリケーションプラットフォームを構築しました。そして徐々に、稼働している実際の製品のデータをそこで収集できるようになりました。また、データ分析プラットフォームも構築しました。

当社はサーバーレスアーキテクチャを採用したため、これらの 3 つのプラットフォームは非常に強力でした。それは当時、AWS においてもまだ新しいものでした。それを考えると、プラットフォームは崩壊することなく、これからも継続します。また、AWS の BI ツールと AI ツール内でデータを収集することで、分析が簡素化されました。私は、そのような活動を企業全体に広げようとしたのです。

Richard Taylor:
教えていただき、ありがとうございます。また、データを収集するためのそれらの製品やそれらのソリューションの構築は、すばらしいコラボレーションとなっています。それをどのように始めたのですか? どのようにしてそれらのソリューションにたどり着いたのでしょうか? お客様に焦点を当て、お客様のために事業間のシナジーを見出すことについて何度も言及されましたが、貴社の AWS チームはどのようにアプローチしたのでしょうか?

朝日 宣雄 氏:
当社はメーカーなので、新しいソリューションを生み出すためのデータ分析の手法は社内にありませんでした。そこで、AWS Japan の担当者の方から、Working Backwards を試してみてはどうか、とご提案いただきました。これは、Amazon のビジネスプランニングの社内プロセスです。AWS Japan の金子さんと共同で Working Backwards プログラムを企画し、三菱社内にピザ 2 枚チームをいくつか作りました。最終的には 1 つの新しいアイデアが得られました。それは、親戚や子供たちと離れて暮らしているかもしれない高齢者のモニタリングに、当社の製品を役立てるというものでした。

これは新しい試みです。すなわち、そのソフトウェアを有料サービスとしてリリースしたのです。当社は通常、製品を販売するだけですが、現在は製品の販売とサービスの経常収益を組み合わせています。そして、それを利用してお客様を理解し、適切なソリューションの創出につなげています。

Richard Taylor:
あなたにとって、Working Backwards から得た最大の教訓の 1 つはどのようなことですか? これまでビジネスで用いていた他のプロセスや方法論とどのように違いましたか?

朝日 宣雄 氏:
当社は現在、エンドカスタマーの行動を直接知ることができます。すなわち、ヒーターやクーラー、タイマーを使用する時期などのデータを収集できます。お客様に関するインサイトを理解するための基礎ができたのです。

Richard Taylor:
将来について考えるとき、リーダーは先を見据えて、2~3 年後の自社のビジネスがどうなっているか、その展望、そしてどのように進化する可能性があるのかを理解することが重要です。そして現在まさに、あなたは 9 つの事業部門全体を見渡す権限が付与されていますが、組織全体の文化にこの考え方を浸透させるには、どのようなアプローチを考えていますか?

田中 昭二 氏:
この新製品の開発経験から、当社は 2 つのことを学びました。1 つは、お客様のニーズをより広い視野でとらえることの重要性です。また、重要なこととして、私たちは実際的な真の価値を考え出さなければならないのです。お客様にお話を伺うと多くのご要望をいただきますが、非常に小さなニーズだけに焦点を当てることはできません。それらは意見です。したがって当社は、ニーズに直接は応えていないかもしれません。私たちは、最も広い意味でお客様が何を必要としているかを正確に理解するために、認識したり、分析したりする必要があるのです。客観的なデータ、すなわち事実がなければ、ソリューションを見つけるために想像力に頼らざるを得ません。

2 つ目として、私たちがソリューションのアイデアについて話し合うとき、最も「声の大きい」人がすべてを牛耳る可能性が高いです。多くの上級職が出席している会議で、何人かの若手社員が「これは良いと思います」と発言しても、マネージャーレベルの人が「いや、これは良くないでしょう」と発言するかもしれません。 このときに、その人の意見が採用されてしまうというような場合が考えられます。しかし、その意見が正しいかどうかは誰にもわかりません。ところが、実際のデータを見て何が起こっているかを知れば、正確に何が起こったかについて、全員が同じ理解を共有できるのです。

Richard Taylor:
そのことを表すフレーズがあります。HIPPO (Highest Paid Person's Opinion、最も給与の高い人の意見) 問題というものであり、通常はその人が組織全体の意思決定を行います。しかし、あなたが経験した Working Backwards プロセスは、会話を平準化する優れた方法です。なぜなら、データがすべて 1 つのドキュメントにまとめられ、そのアイデアを進めることの価値、機会、または障害について、全員が意見を述べることができるからです。 

ルールに挑戦することで文化を変革する

顧客の信頼を築くデジタルエクスペリエンス

Richard Taylor:
AWS では、お客様のクラウドジャーニーは、基本的にテクノロジーによって可能になる文化的な変容であると考えています。それについて 2 つの質問があります。1 つ目は、文化をどのように進化させていくのかということです。 全員の意見を聴くこと以外に、組織全体にこの革新的な考え方を浸透させるためのヒントやコツはありますか?

田中 昭二 氏:
最大の障害は時代遅れの「ルール」だと思います。 当社は 100 年の歴史を持つ製造企業なので、意味をなさない社内ルールが蓄積されてきました。その多くは非常に時代遅れになっています。そして、多くの人がルールが存在する理由さえ知らないにもかかわらず、非常に保守的な人々はとにかくルールに従います。それが、新しいテクノロジーや新しい方法論などの新しい物事に対応する上での大きな障害となっています。

朝日 宣雄 氏:
ルールは主に工場に存在します。当社は製造企業であるため、調達部門の人々は調達ルールを使用し、設計部門の人々は設計ルールを使用し、製造部門の人々は製造ルールを使用します。そこで当社は、工場から何名かの若手従業員を連れてきて、横浜にあるオフィスでピザ 2 枚チームのような少人数のチームを設け、ある種のスクラムスタイルのディスカッションのための部屋を準備しました。これらの従業員を工場の環境から連れ出し、実際のユーザーデータを客観的に見てもらうことによって、その考え方は徐々に変化していきました。これは大きな成功だったと言えるでしょう。なぜなら、たった 2 週間でいくつかの新しいアイデアが得られたからです。その前にも工場では同じデータを何十年も見ていたのですが、新たなソリューションが生まれることはありませんでした。

Richard Taylor:
そして通常、100 年にわたる大きな成功の歴史を持ち、膨大な知識を備えている貴社のような企業では、その組織において複雑さが生じる可能性がありますね。ですから、おっしゃるとおり、会社全体で俊敏性を構築できる方法を見つけることは非常に重要です。そこで質問の後半をおたずねしますが、その点において、テクノロジーはどのような役割を果たす可能性があるとお考えですか? 将来、どのようなテクノロジーを利用し、あるいはどのようにそのテクノロジーを採用する可能性がありますか?

田中 昭二 氏:
当社はテクノロジーに後れを取らないようにする必要があり、新しいテクノロジーを当社の製品やサービスに迅速に採り入れなければなりません。それを実現するには、非常に伝統的なウォーターフォール開発スタイルからアジャイルスタイルに変革する必要があります。また、製品アーキテクチャは非常にモノリシックなので、機能を迅速にマッシュアップしてお客様にデプロイするには、そのアーキテクチャをマイクロサービスベースのアーキテクチャに変更する必要があります。うまくいかない場合は、すぐに更新するなどして対応します。しかし、モノリシックシステムアーキテクチャでは、このようなことをそれほど迅速に行うことはできません。

長期的かつデータドリブンな意思決定

より良い変革への道のり

Richard Taylor:
お二人が 30 人のチームでどのようなことを実現していくのか、とても楽しみです。三菱電機全体でこの課題に取り組むことを考えれば、きっと規模は大きくなるでしょう。組織全体でお二人が主導しようとしているのとまったく同じ変革に着手しようとしている、または実行しようとしている大規模な組織は他にもたくさんあります。そこで最後に、お一人ずつお答えいただきたいと思います。同じような変革に乗り出そうとしている他のリーダーのために、考え方や考える内容についてどのようにアドバイスしますか?

朝日 宣雄 氏:
私は三菱電機での 35 年間のキャリアの中で、11 の新しいプロジェクトに携わってきました。その経験から、忍耐力は非常に重要だと考えています。なぜなら、新しい試みや新しいプロジェクトでは、ある程度の抵抗が必ずあるからです。しかし、それはある意味健全なことです。1 つの組織内で賛成派と反対派がいるということは健全です。しかし、その新しいプロジェクトが非常に重要である場合、抵抗グループを説得する必要があるかもしれません。抵抗グループを説得する最良の方法は、結果を示すことです。ところが、結果を示すにはある程度の時間がかかります。私の経験から言えば、「3 年」がマジックナンバーです。3 年経つと、不思議なことに、抵抗グループはいなくなったのです。

Richard Taylor:
それについて、当社のビジネスでは、「ビジョンには固執し、細部には柔軟であれ」という言葉があります。お話を伺うと、考え方を組織に浸透させるには長期的に考えることが重要だと思いました。

田中 昭二 氏:
私は自動車機器部門に携わっていました。私たちはお客様の要望に正確に応えていました。お客様は、自分が何を望んでいるのか、何が必要なのかを具体的に述べていました。しかし、最近の自動車業界は、いわゆる VUCA (変動しやすく、不確実で、複雑で、曖昧) になっています。

お客様も自らが何を望んでいるのかを把握できていないため、お客様から正確な要望や要求を得ることはできません。そのため、Working Backwards と同様に、直接のお客様を超えて、実際の自動車所有者まで考える必要があります。私たちが従うべきストーリーは、エンドカスタマーにとっての実際の価値につながるストーリーだと思います。

これはかなり困難なことです。私たちの組織スタイルはそのように物事を進めているからよくわかります。私たちは徐々に考え方を変え、失敗を恐れずに数多く挑戦できる文化を受け入れなければなりません。双方向の意思決定のコンセプトのように。

Richard Taylor:
そして、貴社は今では非常に多くのデータを収集しているので、そのデータを利用して、お客様のために目的から逆算して物事を進めるのですね。データに基づいて意思決定を行い、長期的なビジョンに固執するということですね。

リーダーについて

朝日 宣雄 氏
三菱電機株式会社、執行役員 DX イノベーションセンター長

朝日 宣雄 氏は、三菱電機株式会社の執行役員 DX イノベーションセンター長です。以前、朝日 宣雄 氏は三菱電機株式会社の執行役員 IoT・ライフソリューション新事業推進センター長を務めていました。

田中昭二 博士

田中昭二 博士
三菱電機株式会社、AI 戦略プロジェクトグループマネージャー

田中 昭二 氏は、32 年を超える実務経験を持つ経験豊富なソフトウェアアーキテクトであり、コンピュータビジョンエキスパートです。大阪大学で博士号を取得しているほか、MIT Sloan で Driving Strategic Innovation に関するコースを修了しています。現在は、AI 戦略プロジェクトグループマネージャーを務めています。三菱電機や Automotive Equipment Marketing Div. での勤務など、豊富な実務経験があります。

Richard Taylor
AWS、APJ Innovation Programs Team Lead

Richard は、消費者戦略、イノベーション、インターネットテクノロジー、ならびに人材および組織変革に関する、20 年を超える期間にわたる専門知識を備えており、現在はアジアパシフィックと日本の AWS Innovation Programs を主導しています。リーダーシップチームと緊密に連携しながら、イノベーションに対する Amazon 独自のアプローチを探求し、クラウドコンピューティングテクノロジーを適用してビジネス上の問題を解決して、新しいビジネスモデルを生み出しています。

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